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大阪商業大学 宮坂朋幸研究室気付

関西教育学会学会賞の選考結果HEADLINE


第4回 関西教育学会学会賞(2023年度)
粂川薫樹
宇佐美寛の教育論の思想史上の位置付け:分析哲学としての性質に着目して」研究紀要第23号掲載)


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受賞理由は以下の通りです。
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 本研究は、宇佐美の教育論が、単なる個別的問題に関する局所的論戦の遍歴でなく、当時、黎明期にあった分析哲学を日本の教育学の系譜と接続させる試みであることを論じたところに斬新な視点が見出される。
 顕著な成果として以下の3点が挙げられる。1点目は、授業論における宇佐美の概念整理を検討することによって、道徳や国語などの複数領域における主張がある言語観を共有していること、及びその内実を明らかにした点である。2点目は、斎藤喜博の国語の授業「森の出口」を題材とした「出口」論争における斎藤喜博・吉田章宏批判、および同論争を通して、宇佐美が「法則化」へ及ぼした影響等を明らかにした点である。3点目は、言語哲学の影響を受けて展開された米国の分析的教育哲学の概史を参照しつつ、宇佐美の教育思想史上の位置づけについて、説得力のある問題提起をおこなった点である。
 以上のように、本研究は現在の教育哲学研究および教育方法学研究に重要な知見をもたらすものである。加えて、多岐にわたる文献を細部に至るまで多角的に使用した重厚かつ繊細な考察が展開されており、教育学研究としての精度もきわめて高い。論旨の進め方も、読者を深く引き込む内容になっている。

第3回 関西教育学会学会賞(2022年度)
遠藤健治
1930 年代以降、京都府における小学校教員無試験検定の実施過程―日本における私立学校女子卒業生の小学校教員免許状取得ルート―」研究紀要第22号掲載)


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受賞理由は以下の通りです。
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 本研究は、従来は等閑視さ れていた小学校教員無試験検定の実施過程をつぶさに分析し、 1930 年代以降の京都府における無試験検定の制度的確立期に際し、私立学校が国公立学校などを上回る合格者を輩出するようになり、その卒業生の多くが女子であったことを明らかにした。
 顕著な成果として以下の 3 点が挙げられる。
 1 点目は、 京都府に豊富に保存されている行政文書を活用して、同府の事例が先行研究の事例とは異なる特徴をもった小学校教員無試験検定の重要事例であることを明らかにした点である。
 2 点目は、京都府における女性の小学校教員界への参入過程を跡づけることに成功している点である。
 3 点目は 、従来の 研究では等閑視されてい た戦前期の小学校教員無試験検定の実施過程を解明することを通じて、師範学校による「閉鎖的」な教員養成という文脈のなかで語られてきた通説的な見解に対して、説得力のある問題提起をおこなっている点である。
 以上のように、本研究は現在の教育史研究および教員養成研究に重要な知見をもたらすものである。加えて、一次資料を用いて 慎重に分析がおこなわれており、実証的研究としての精度も高い。よって、編集委員会として本研究を関西教育学会賞に決定した。


第2回 関西教育学会学会賞(2021年度)
岡村亮佑
稲垣忠彦による『授業カンファレンス』論の成立背景と意義」研究紀要第21号掲載)


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受賞理由は以下の通りです。
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 本研究は、稲垣忠彦の授業研究が、授業の一般法則の定立を目指す「教授学の建設」から授業の事例研究である「授業カンファレンス」へと展開していく過程を丁寧に辿ることによって、「授業カンファレンス」論の成立背景と意義を解明することに成功した。
 特に、授業の事例研究の意義が疑問視される現在において、その意義を正面から問い、稲垣の歩みに照らして、「教授学の建設」を目的とする授業研究は授業の複雑性という障壁に直面せざるを得ないこと、授業の事例研究の目的は個別具体的な事例の検討そのものであり、授業の事後検討会はその深層を捉えるための質的な方法論として位置づくこと、授業の事後検討会においては、参加者の対等性を確保することがその形骸化を防ぐ重要な条件となること、という3点の示唆を導き出したことは、顕著な成果である。
 以上のように、本研究は現在の教育学研究に重要な知見をもたらすものである。加えて、対象人物の背景を十分に踏まえて問題意識を理解した上で、問題を突破する過程をつぶさに跡付けており、人物研究としての論述の精度も高い。よって、編集委員会として、本研究を関西教育学会賞に決定する。


第1回 関西教育学会学会賞(2017年度)
森本和寿
「友納友次郎の綴方教授論における『描写』と『自己信頼』―随意選題論争を手がかりとして―」研究紀要第17号掲載)


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受賞理由は以下の通りです。
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 本研究は、従来、系統性を重視する練習目的論者として位置づけられてきた友納友次郎の綴方教授論とその実践について、芦田恵之助との随意選題論争の前後における彼の思考の深まり方を丁寧に辿ることによって、「描写」による「自己信頼」の獲得という新たな特徴を析出することに成功した。
 特に、従来、系統性や子どもを社会に馴致させる側面が強調されていた「練習目的論」の形成過程を追うことによって、友納の綴方教授論に、子どもに自由性を獲得させる意図があったことを読み取った点、随意選題論争の観点を、従来の「自由性と系統性」から「内観と描写」へと転換することを提唱するとともに、友納の「描写」論が写実主義から影響を受けていたことや、その「描写」によって児童自身の「自己信頼」の獲得を目指していたことを指摘した点、さらにそのような特徴を児童の綴方に対する友納の評価・指導という、実践の面からも確認した点は顕著な成果である。
 以上のように、本研究は当該分野に新たな分析視角を提供するものである。また使用される史料の扱いや論証の手続きも妥当なものであり、論述の精度も高い。よって、本研究を関西教育学会賞に決定する。