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京都大学大学院教育学研究科内

関西教育学会教育実践研究賞の選考結果HEADLINE

第8回 関西教育学会 教育実践研究賞(2020年度)
橋本あかね
「不登校生徒への生徒指導における支援員を起点とした事務職員及び学校用務員の関わり―「チーム学校」論の批判的検討―
」研究紀要第20号掲載)

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受賞理由は以下の通りです。
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 本研究は、これまでの不登校研究に多くみられる学校教員の視点からのアプローチではなく、不登校支援協力員の視点からみた不登校生徒への支援に着目している点に特徴がある。とりわけ、不登校生徒の状況把握や彼らの人間関係の幅を広げるために、事務職員や学校用務員との関わりを築くことが、結果として、教職員の連携を深め、集団的に不登校生徒への関わりを生む土壌となった点への言及にはみるべきものがある。
 不登校に関する研究の多くは、対象となる児童生徒へのアプローチであったり、彼らを支援する教職員の専門性を論じるものが多い。また、本論文で指摘されるように、スクールカウンセラーのような専門性の高い支援者の必要性を指摘するものが少なくない。しかし、本研究のように、非専門家であり、生徒と直接的な利害関係をもたない支援員、事務職員、学校用務員等とのかかわりを分析対象としている研究は管見の限りない。アクチュアルな課題に対するひとつの模範となる実践事例であり、専門家による連携を強調する「チーム学校」論の効果を考察する上でも貴重な実践研究報告である。
 本研究は専門家の連携において最も手薄になりがちな、それぞれの専門領域外に置かれやすい「間」「際」の時空間を、非専門家である支援員等が「一人の大人として」フォローし、かつファシリテーターとして情報共有の要にもなるという、今後の学校運営のひとつの型を示す内容である。子どもが生きる場に居合わせる大人には、職種がどうあれ全員に、子どもに対する社会的な応答責任があるという基本的な倫理を確認するという意味でも、本稿の主張は重要である。「チーム学校」論の重要な課題である、専門家同士の有機的な連携のなかに、非専門家を加えていくことによる効果を示す貴重な実践事例として、極めて重要な社会的意味をもつ。

 よって、本研究は「他の実践者にとっては優れた手本となり、研究者にとっては教育学的な研究課題を発見することができる貴重な資源」となるもの、とする教育実践研究賞の趣旨に十分こたえる論考であり、同賞の対象となるにふさわしい研究であると考える。



第7回 関西教育学会 教育実践研究賞(2019年度)
濱元伸彦
「被災校の子どものヴァルネラビリティに向き合う学習共同体の役割―福島県A中学校の『ふるさと創造学』の実践に着目して―
」研究紀要第19号掲載)

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受賞理由は以下の通りです。
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 本研究は、「共同的なケアの空間」の形成において、「つながり」という一般的な関係ではなく、「学習」共同体の果たす役割に着目している点に特徴がある。とりわけ、共同体の捉え方もあくまでも「学習」を通してつながっている共同体としての特徴を取り上げようとした点に研究の新規性がある。また、本論文で分析対象としている「一人一研究」は、「総合的な学習の時間」や学校設定科目を考察する際にはよく題材として採用されるものだが、本研究では、それを喫緊な教育課題である被災避難地の福島県での「ふるさと創造学」を対象事例として、「一人一研究」がどのように機能しているのかを丁寧に分析することで、馴染みのある教育方法の実践価値を再発見した貴重な実践研究論文であると考える。

 本研究は、関西教育学会の教育実践研究賞の選考基準である「実践者にとって優れた手本となり、研究者にとっては教育学的な研究課題を発見することができる貴重な資源となる」という水準を保つものであり、同賞の受賞に値するものであると判断する。



第6回 関西教育学会 教育実践研究賞(2016年度)
久保田重幸
「各時代の特色をとらえる中学校歴史学習の研究―適切な学習課題の設定と多様な討論を工夫して―」研究紀要第16号掲載)

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受賞理由は以下の通りです。
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 平成20年度から「中学校学習指導要領」の社会科で導入された歴史的分野の改訂のひとつとして、「各時代の特色をとらえる学習」が新設された。筆者はこの学習課題に新たに取り組む教員として、活発な参加、多面的・多角的なものの見方、内容理解の深化という3つの態度や能力を生徒に発達させることを目標として、2年半にわたる実践のなかで、いくつかの工夫を行った。すなわち、二者択一型のわかりやすい論点の設定、ディベート形式によるグループ討論、発表カードを用いた視覚的整理など、である。その後に生徒を対象とした学習アンケートを行い、自己の実践を省察的に振り返っている。その結果これらの工夫はそれぞれに有効であり、当初のねらいはほぼ達成されたが、構造的にまとめることの難しさ、個人の話す能力差の問題、教員による適切な援助の必要性が認識された。本報告については、筆者の創意的な工夫の努力が評価されただけでなく、学習目標とした活発な参加、多面的・多角的なものの見方、内容理解の深化という3つの態度や能力が、独立したものではなく相互に連関した複合的力量として捉えられる可能性について明らかにした点などが教育研究実践として価値ある点と認められ推薦の理由とされた。



第5回関西教育学会 教育実践研究賞(2015年度)
佐藤貴宣・高橋眞琴
「特別支援学校におけるリハビリテーション専門職の配置と教師役割―二重の専門性による教職把握に向けて―」研究紀要第15号掲載)

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受賞理由は以下の通りです。
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 本研究ノートは特別支援学校でのフィールドワークと教師へのインタビューに基づいて、特別支援学校の日常世界の特質を、教職の専門性や教師役割の独自性という観点から描いたものである。職場としての通常の学校は、圧倒的に教師の世界であり、その役割を脅かすものは少ない。しかし特別支援学校は通常の学校と異なり、教師のほかに、看護師、理学療法士、作業療法士、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど様々な専門職が、児童生徒の障害に応じて配置されている。そのなかで、教師は障害や発達に関する一定の知識をもちながら、「教育」を行う専門家として存在している。「教育」のほかに、「医療」「療育」「ケア」「介助」など様々な職務が混在する現場において、「教育」という専門領域が他の職種から浸食され、分断され、あいまい化され、常にそのアイデンティティの存立が問われる環境にある。
 本研究ノートは、筆者が特別支援学校の支援ボランティアとして教師の補助、準備、介助などに従事するなかで、参与観察を行い、こうした特別支援学校の教師が、他の専門職との分業、協力が必要とされる職務ポリティクスのなかで、「教育」の専門家として、どのようにアイデンティティを自己提示しようとするのか、について考察し、またさらには、通常の学校のなかでは見えにくい、教職の専門性とは何かという根源的な問いを、実践的状況において問いなおしたものである。その観察の結果、筆者は、教師とは、対外的に医療や療育、リハビリテーションに関わる知識や情報を保有する障害児教育の専門家として、教育とリハビリテーションという双方への同時的コミットメントによって形作られる、独特の専門性、すなわち「二重の専門性」を持つ存在として定式化したことなどが高く評価された。



第4回関西教育学会 教育実践研究賞(2014年度)
馬場住子
「フレーベル『母の歌と愛撫の歌』の『遊び歌』の実践―乳幼児と母に試みた「チックタック」の実践報告―』(研究紀要第14号掲載)

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受賞理由は以下の通りです。
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 本論文は、フレーベルの晩年の作品で、母親と保育者の意識改革のために著された育児書『母の歌と愛撫の歌』が、時空を超えて不滅であり、特に大人になりきれない両親による育児放棄や虐待が絶えない現代日本においてこそ、母親にわかりやすく伝えるべき保育教材であるという問題意識から実施された実践記録である。このように歴史的な教育思想・実践と現代における保育実践との接点を求めようとする本論文は、きわめて野心的な試みとして歓迎したい。また、現代風、日本風にアレンジされた『母の歌と愛撫の歌』の作成の可能性にも言及されており、将来的な展望を持つ研究として評価することができる。



第3回関西教育学会 教育実践研究賞(2013年度)
平阪美穂・大石尚子・野口寛樹
「人材育成を中心とした大学間連携の発展と地域貢献活動の可能性―京都における大学間連携の事例から―」(研究紀要第13号掲載)

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受賞理由は以下の通りです。
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 本論文は、執筆者の全員が当事者としてかかわった、京都における「地域公共人材大学連携事業」の取り組みを取り上げ、とりわけこの事業において開発された「地域公共政策士」資格制度を分析・検討することによって、大学間連携がなしうる地域貢献の可能性と意義について明らかにしようとしたものである。今日、一方では大学間連携が、他方では大学の地域貢献が叫ばれており、それぞれについては、それなりのあるいはかなりの成果が報告され、また議論や研究も存在している。しかしながら、大学間連携による地域貢献の取り組みというのは今のところまれであり、その意味では、ここで紹介されている実践的事例は、貴重であるとともに、一つのモデルを提供するものと高く評価することができる。



第2回関西教育学会 教育実践研究賞(2012年度)
中田尚美・安藝雅美
「異年齢保育における「協同的学び」に関する一考察―劇遊び活動における年長児の経験を中心に―」(研究紀要第12号掲載)

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受賞理由は以下の通りです。
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 本論文は、執筆者の一人が保育者として直接かかわった、兵庫県内のK幼稚園での異年齢混合の劇遊び活動の実践を紹介し、そこにおける年長児の活動を「協同的学び」と いう視点から分析し、異年齢保育の有効性について考察を試みたものである。年長児の活動が、異年齢混合において、保育者の指導によって「協同的学び」へと向かう過程を生き 生きと描くとともに、異年齢集団は模倣と観察による学習の可能性を拡大するものであるということを明らかにしている。保育における「協同的学び」の重要性が強調されている 今日にあって、本論文は、「協同的学び」の保育実践に対して一つのモデルを提供するものとして、高く評価することができる。



第1回関西教育学会教育実践研究賞(2011年度)
高木聡
「教材の意味生成を語る試み−教材との出会いの固有性を探る」(研究紀要第11号掲載)

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受賞理由は以下の通りです。
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高木聡会員は現職の高校教師で、研究ノート「教材の意味生成を語る試み―教材との出会いの固有性を探る」は、自らの公民科「現代社会」の班討論を取り入れた授業実践をもとに、教材を媒介として教師と生徒が出会う在り方を、教材の多様な意味を見出す「語り」に焦点をあてて探究したものである。本研究ノートの 特色は、従来の「授業実践を語る」「語り」の在り方への反省を、自らの授業実践の語りを通して実行しようとしているところにある。高木会員は、まず予期された教材への生徒の応答とは異なる応答に出会うことによって、教師が自らの指導案と教材の意味とを反省し捉え直す「語り」の在り方を反省的に論じる。さらに、その同じ授業において、通常の授業のときとは異なる応答をした二人の生徒を事例的に取りあげ、教師の予期した教育の「ストーリー(語り)」に回収できないそれぞれの生徒に特有の応答の理由を探り出すという新たな「語り」の在り方を論じる。その上で、この二重の「語り」へのメタ的な反省によって、「授業実践を語る」という従来の「語り」の在り方への反省を促すとともに、教師が仕掛ける教材の意味の多様な生成の可能性が生徒だけでなく教師自身にもあることを明らかにする。本研究ノートは、教材が開く意味の多義性を示すだけでなく、授業実践の「語り」の在り方に焦点をあてることで、授業を反省的に捉える視点を示したものとして、高く評価することができる。